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俺は狡い男だ。
つけ入るような真似をして、強引に引き寄せておきながら、肝心なところで怖気づいて、相手に選ばせるのだから。
それでも、その頼りない手のひらで押しやってくれたら。
これ以上はダメだと拒絶してくれたら。
そうしたら今度こそ、終止符を打とう。
――だけど、もし、応えてくれたなら。
少しでもチャンスがあるのなら。
そうしたら、やめてやる。
堪えて押し込める事を。
ただの幼馴染である事を。
眺めているだけでいいと、逃げていた事を。
情けない決意と共に、ただその時を待った。
「……修、くん」
嗚咽混じりのそれは、建前の全てを取り払った。
剥き出しとなった本能が、嬉々として体中を駆け巡った。
「愛奈」
懇願するように囁かれた声。
再び力を取り戻した腕の片方は、愛奈の腰を捕らえ、二人の間にあった隙間を追い出した。
交差する、熱を孕んだ視線。
宙をさまよっていた愛奈の細腕が、縋り付くようにシャツを掴んだ。
後頭部に滑らせた手のひらを引き寄せれば、もう後戻りは出来ない。
けれども俺は迷わなかった。
触れたら最後。
そんなこと、最初から分かりきっていた。
その上でやめてやったのだ。
絡めた熱い指の上でひんやりと存在を主張するそれを挑発するようになぞる。
そして、愛しい熱を一息に引き寄せた。
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