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全てを焦がしてしまいそうな熱気の中でも、彼女の心には真冬の空が広がっていた。
今も冷たくて重たい雪がしんしんと、底をすっかり覆うくらいに降り積もっている。
いつからか、幼馴染は嘘を吐くようになっていた。
『――元気だよ』
たった一言。
その何気ない筈の一言に、強烈な違和感を覚えた。
横藤愛奈(よこふじ あいな)は、背丈こそ平均より小柄であるが、それ以外は凡そ平凡な容姿の女子だった。
少々人見知りのきらいがあるが、それは大した問題ではなかった。
慣れたら軽口も叩きあうし、声を張り上げて笑うし、飛び跳ねもする。
愛奈が感情豊かで思いやりがあり、嘘がつけない人間であることは、付き合い始めて程なく知れることだった。
――愛奈とは幼馴染である東堂修一(とうどう しゅういち)は、彼女の友人の誰よりも彼女を見てきたという自信があった。
単純な話、修一は愛奈に恋心を抱いていたのである。
所謂初恋だ。
幼い頃の淡いそれは成人した今も変わらずにあって、けれども高校生二年生の夏頃から、心の隅っこで燻っているだけのものだった。
初恋の君ではない女性とそういった関係に収まることも幾度か経験したが、それが消えてしまうことはなかった。
終止符を打つべきだと、思い出にしてしまえと、何度も考えはした。
……したのだが、思い出にしてしまえないまま、ズルズルとここまで来てしまっていた。
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