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多感な時期のそういった感情の制御はうまいこと利きやしない。
好きだと認めてしまう事を恥じてしまったばかりに、俺の初恋は見事なまでに砕け散ったのだ。
「あのね、修くん。私、好きな人と付き合うことになったんだ」
笑みという名の鈍器で、後頭部を思い切りぶん殴られた。
(なんだよその顔……初めて見たぞ)
当たってもいないのに砕けて、パラパラと静かに散っていく欠片を呆然と眺めて、漸くそれが恋だと自覚した。
急いでかき集めたところで、一度壊れたモノは元には戻らない。
(ああ、そうか。俺は……そう、だったんだな)
感情に名がついたところで、今更でしかない。
この想いを形に、音にすることは叶わない。
呼吸の仕方を忘れてしまいそうになった。
気付いた時には遅かった――なんてありきたりだ。
そのありきたりな事実が、いっそ死んでしまいたくなるほど苦しいとは。
その日、初めて愛奈を直視する事が出来なかった。
それでも数日後には平然を装い、何事もなかったように続いた今まで通りの関係は、とても不思議なものだった。
愛奈の何気ない笑顔が、俺ではない誰かに向けられていると思うと、心臓の裏側でぴり、と緊張が走って、途端に胃の辺りが重くなった。
けれども、あまりにも分かり易く幸せですって顔をするもんだから――俺は、本当は苦しいはずなのに、自然と笑っていた。
この顔が見られるなら、それでいい。
そんな事を思って、心の片隅に集めた淡い欠片たちに、ひっそりと蓋をした。
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