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二年ぶりに連絡が取れて、近況報告を兼ねて飲もうかと誘ったのは俺の方だった。
例え相手が幼馴染とはいえ、彼女が男と二人で酒を酌み交わすとなれば、どうにも良い気がしない。
けれども、行くなとも言えずに気にしていない風を装って送り出してしまうのが、男というやつだ。
……と、思う。
だからこうして再会出来たのだが、嬉しい反面、大切にしているなら簡単に送り出してんじゃねぇよ、とも思った。
そうした複雑な思いを隅っこに積もらせながらも、面と向かい合えばやっぱり純粋に嬉しさが増すもので。
まずはなんと声を掛けるべきか、なんて柄にもないことを考えた。
結局「元気にしてたか?」なんてなんのひねりもないありきたりな言葉しか出てこなかった時は、我ながら格好がつかないなと苦笑したが。
「――元気だよ」
ひやり。
返ってきたその一言に、思わず怪訝な顔をした。
一見すると、普段のそれと変わらない笑みだった。
ともすれば惚気でも始まりそうな笑顔にも思えたが、強烈な違和感が俺の横っ面を張り、よく見ろと叱咤した。
「そういう東堂君はどうなの?」
あれほどよく見てきた幼馴染の一挙一動が、まるで別人のように見えた。
口の端に薄く乗せられた笑みは紛れもなく偽物で、ひどく滑稽にさえ思えた。
それからの会話は、正直あまり覚えていない。
差支えのないものだったり、学生の頃の思い出話だったりが、思考の隅にも引っかからずにただ右から左へと流れていった。
俺の目に映る彼女は、平然を装っているようにしか見えなかった。
右手の薬指の飾りを時折確かめるように撫でる姿ばかりが焼き付いて離れなかった。
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