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愛奈は知らない。
俺がどれだけの欲求に駆られ、その勝手な嫉妬心を強引に抑えつけていたかを、知るはずがない。
その隣に立って、髪に触れ、頬を撫で、腰を抱き寄せて、想いを伝える。
すると彼女は照れくさそうに瞳を揺らして、熟れた果実のように頬を上気させ、愛らしい笑みを向けて、ふっくらとした唇で、想いに応えてくれる。
何度も何度も脳裏に描いて、けれども現実を映すこの目はそれらを見る事は無くて。
どうして俺じゃないんだ、と。
身を焦がしながらも、愛奈が幸せならば何よりではないかと、暗示をかけるように言い聞かせてきた。
それらは今後も知られなくて良かった。
往生際悪く燻っていた想いを伝えることが愛奈の幸せの妨げになるならば、無かったものとして消化してしまうつもりだった。
――けれども、限界だった。
耐えられなかった。
耐える意味もなくなってしまった。
だってそうだろ? 現にこいつは、下手くそな嘘を吐いたし、上手く笑えてさえいないんだ。
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