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何度もお母さんに聞いた。
僕は、いつから夏を忘れたのか。
夏はアツいのか、サムいのか、どっちなんだろう。
ただ痛いだけ。
体が動かない。
あの事故の記憶が、いつも体の痛みとともに苦しめてくる。
肉を焼かれた、あの別荘での事故。
お母さんと兄さんは死んだ。
僕だけ何もできないまま生き残った。
ねえ、夏ってどんなものなの。
周りのみんなは七月になるとはしゃぐんだ。
ジェットコースターに乗りたいって、海に行きたいって、山登りがしたいって、言うんだ。
僕だけはベッドに横たわったまま。
寂しいから泣いちゃうんだ。
でも彼女だけは残って僕にいろんな話を聞かせて励ましてくれる。
顔は分かるんだけど、名前は何度教えてもらっても忘れちゃうんだ。
優しくしてもらっているのに僕は残酷なお返ししかできない。
だからもっと泣くんだ。
感謝の気持ちを伝えるつもりでね。
今日は目の色がピンク色の動く粘土人間のお話をしてくれた。
「夏休みの自由工作でね、土偶みたいな形の粘土人間を作る子がいたの。その子、きっと、お母さんからもらったんだと思うけど、ピンクのマニキュアをポケットから取り出して目を描いてた。おかしかったわ。まさに芸術って感じで。粘土触ったことある?」
僕は首を横に振った。
「あるかな・・・・・・ちょっと待ってて」
しばらくしたら灰色の塊を持ってきた。
「触ってみて」
そっと僕の右手を持ってくれた。
よくわからないけど柔らかい手だった気がする。
粘土の感触もわからない。
悲しかった。
「どう?」
僕は笑い泣きするしかなかった。
好きなのに言えない、抱きしめられない。
彼女だけが毎日決まった時間に来てくれる。
でも今日だけはなんだか様子がおかしかったから余計につらくなった。
「私ね、今日が最後の出勤日なの。他の病院に飛ばされることになっちゃって。だからあなたと会うのも、今日でおしまい。そろそろ時間だわ。粘土はあげる。じゃあ・・・・・・行くね」
僕はうめき声を上げて必死に呼び止めた。
彼女は泣いてはくれなかった。
もう僕の相手はいない。
これからの夏はずっと一人なんだ。
そんな夏なんてなくなればいいのに。
彼女は僕にとって夏なんだと気づいた。
夏はアツい。
多分そうだろ、お母さん。
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