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取りあえず方角を確かめるため星を仰ぎ見た。
湿った大気に笑い声が響く。
「はっははは」
それが自分の口から出たものだと気が付くのに時間がかかった。
月が二つある。
満月が二つ、オリンピックの輪のように重なっている。
日本所かこの世でもなかったか。
ふと幼なじみの顔が脳裏を横切った。
信じないだろうな
心の中でそう呟き、無造作に砂浜の砂をつかんで目線の高さまで上げた。
五指の合間から流れ落ちる砂塵。
この世ではないにしろ法則が同じならやりようはある。
重力は普通に働いているようだ。
ただ月が二つあると言う事は波の満ち引きはかなり複雑だろう。
大気に及ぼす気候の変化も想像が付かない。
それに星で方角を探るのも不可能か。
面白い。
こんな時に不安より好奇心が先に立つのはまだまだガキか。
と思いつつも、自然と笑みがこぼれる。
砂浜の奥に慄然(りつぜん)と生茂(おいしげ)る森が目に入った。
真夜中に森に入るのは感心出来ない。
その考えとは裏腹に、足は自然と森へ歩を進めていた。
運命の扉は開いた。
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