コーヒーと夕陽

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「……お前、たまにロマンチックだな」 「はっ?!そんな、ことっ」 苦笑してやると友人は真っ赤な顔をコーヒーの缶で隠した。 隠しきれていないが。 そんな友人の横顔に、 「なあ」 「ん?」 「俺がもし――――――」 突如、サイレンが鳴り響く。 救急車だ。 言葉の半分はサイレンに呑み込まれるように消えた。 「聞こえなかった。何?」 真剣な顔が覗き込んでくる。 「いや。いい」 「なんだよ気になるな」 誤魔化すように口角をあげると、こちらがもう言わないとわかったのか簡単に引き下がった。 僅かに伸びた影をなんとなく眺める。 ぼーっとしていると細かな振動がベンチを伝ってきた。 「おい、携帯なってるぞ」 「ああ、悪い」 ポケットから出したそれを見て、友人の顔つきが変わった。 少し離れて話始めた友人が、嫌そうな表情をする。 「すまん、仕事が入った」 「おう。またな」 「あー…夏なんか来なければいいのに」 ひらひら手を振りながら愚痴る友人の背中に、 「そういうなよ、葬儀屋」 言葉を掛けると、振り返り、 「俺は綺麗なまま送りたいんだよ」 ちっとも不満そうではなかった。 「…お前、それ前も言ってたな」 「そうか?」 友人はははっと笑ってまた歩き出す。 見送り、立ち上がるとガートル台を引き、友人とは反対方向へ向かう。 すぐそばの自販機の横のゴミ箱へ缶を放り、ちらりと友人の方を見ると、ちょうど院内の庭から出るところだった。 「なんだかんだでちゃんとプライドあんだな」 夕陽が友人の背を照らす。 確かに水面に写れば美しいかもしれない。 全てが夕陽に染まるのだろう。 それは微細にとはいかずとも、朧気になら想像はできる。 けれど、確かめることは―― 「俺は、無理だな」 きっと夏の終わりには――――――。 「…なあ、俺の時も頼むよ」 今度はサイレンで掻き消されなかった。
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