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「とにかく、どうぞ。入って」
木製の扉を大きく開け、レンガ色のテラコッタの敷き詰められた玄関に入る。
そんな私の後からのっそりと現れた彼は、私が脱いだばかりの
ベージュのローファーと女物のサンダル一組に目を落とし、
ポツリと尋ねてくる。
「もしかして美沙ちゃん、こんな大きな家に一人で住んでるの?」
「えっ?」
当たり前のように来客用のスリッパを並べていた私は、思わず彼を見上げた。
「あ、あぁ、ごめん。表札に、『佐伯』ってあったから……」
さっき、十年以上も一人で暮らしてきたと口にしたではないか。
それでも尚、「独身」の二文字は必要なのだろうか。
またしても浮かんでくる、面倒な鬱陶しさ。
それが胸に広がると同時に、私は、彼を招待したことを再び小さく後悔した。
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