1 小道の再会

3/30
前へ
/30ページ
次へ
舗装されていない小道の人影は、私たち以外に見られない。 そして、声も言葉もない私たちの間に、戯れるヒバリの声が 春風にそっと乗ってくる。 だが私は、そんな光景の中で再会したこの男が誰なのか、 直ぐには分からなかった。 そして、遅れること数秒。 釣られるように立ち止まった私の記憶の片隅でも、 ようやく過去が、ゆっくりと扉を開き始める。 ん……? それでも尚、記憶が探り当てた過去と目の前の男と、 何かが一致しない気がした。 そんな戸惑いをわずかに広げる私の耳に、ザリッと土と小石がこすれ合う 乾いた音が小さく入り込んだ。 それと同時に、まるで金縛りを解かれたように深い呼吸をひとつした男が、 乾いた小道に転がる小石の踏み鳴らし、そろりと踏み出す。 「美沙(ミサ)、ちゃん……?」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加