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舗装されていない小道の人影は、私たち以外に見られない。
そして、声も言葉もない私たちの間に、戯れるヒバリの声が
春風にそっと乗ってくる。
だが私は、そんな光景の中で再会したこの男が誰なのか、
直ぐには分からなかった。
そして、遅れること数秒。
釣られるように立ち止まった私の記憶の片隅でも、
ようやく過去が、ゆっくりと扉を開き始める。
ん……?
それでも尚、記憶が探り当てた過去と目の前の男と、
何かが一致しない気がした。
そんな戸惑いをわずかに広げる私の耳に、ザリッと土と小石がこすれ合う
乾いた音が小さく入り込んだ。
それと同時に、まるで金縛りを解かれたように深い呼吸をひとつした男が、
乾いた小道に転がる小石の踏み鳴らし、そろりと踏み出す。
「美沙、ちゃん……?」
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