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そんな彼の名は、田村泰彦。
私が短大卒業後、就職した先で一年間だけ一緒だった男。
そして、少なからず二人の間に「恋」という文字が浮かびかけていた仲。
しかしそれは、十九年も前のこと。
そして今は、単に懐かしい昔の同僚に過ぎない。
「どうしたの? 旅行?」
都心に程近いこの辺りは、海に、山に、温泉にと、
文字通り都会でのストレスを癒す場所で、別荘も多い。
だが今は、木曜日の昼下がり。
しかも、桜の季節はとうに過ぎ、大型連休にはまだまだ間がある。
つまり、旅行にしては、ちょっと季節外れといったところ。
しかし、そんな事を私が口にするよりも先に、
彼の顔には、ちょっぴり照れくさそうな苦笑が浮かんだ。
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