プロローグ またね

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顔立ちの整った長い銀髪の少女は、香坂花枝の名札が記された病室のドアをノックした。約束をしていたのか年老いた男性がドアを開ける。 少女の姿を見て驚いた男であったがすぐにカーテンで仕切られた部屋に少女を通した。 彼女は男に軽く会釈する。 部屋中、アルコールのツンと鼻にくる匂いでいっぱいだった。 「ハジメマシテ。コンニチハ」 少女はベットに横になった老女のそばにあるイスに座って言った。ひどくやせていて、喉元が深くえぐられたように大きな影を形作っている。 老女の近くには清涼飲料水や新聞が置かれ、新聞の一面には窃盗団のリーダー自首のニュースが書かれていた。 少女のイントネーションがおかしく、慣れていない様子なのが少女のおどおどした態度から見て取れる。老女はだれもいないカーテンに目を向けていた。   「こんにちは。あなた、この子がライラちゃん?」老女の弱々しくも軽やかな声が男と少女に伝わった。 少女は老婆の近くへ来て、覚束無く、空を切っていた老女の手を優しく握る。「ちっとも、変じゃないの」 「かわいい声ね。可愛くて……ああ、あたたかいのね」
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