第一章 ライラ、失業者に会う

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会社が倒産した。正確には、テレビのトップニュースを呆然として眺めていた。 眺めていた状態から、次の行動に移すには多大な時間を消費した。 頭髪の量は、会社に務めていた頃よりも、めっきり減ったと思う。減ったというと、食欲も減った。 妻との会話は前からそこまで頻繁ではなかったが、ほとんど無言になった。目を合わせるのも辛いし、体も億劫になった。 家のローンは、まだ完済していない。借金は、まだまだ多く、自分が死んでしまえばなんとかなる具合である。 仲の良い同僚は、倒産することを何となく感づいていたらしく、内密に再就職先を見つけて、新しい所に早くも落ち着いたらしい。 他の連中も、苦労はしているが、なんとか再就職先を確保したらしい。 そして、まだ私は決まっていないし、就職活動すらはじめていなかった。 倒産してから大分たっていることは身をもって体感した。その時に味わったサブイボが全身にたったあの薄気味わるい感覚ははっきりと覚えている。 大きく深呼吸をした。 貧乏ゆすりが止まらない。台所と居間、自分の寝室を日中行ったり来たりして、生活している。 あるとき、気分転換に調理をしたが、包丁をもって食材を切ろうとした時に、包丁の持ち手が突然ふるえだし軽いパニックになってしまい、妻に止められた。 妻は、私が何をしているか逐一監視しているようだった。普段、妻は平日は夕方まで仕事をしている。 仕事といっても、ホームセンターでパートをしているのに過ぎなくて、会社が潰れる前の私は正直な所あまり関心を寄せていなかったが、今はとても頼りになっている。 恥ずかしい話、自分の精神が打たれ弱いことは重々わかった。
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