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「どういうことだって言いたげな顔だけど」
「あぁ、そうだな」
頭もいいし、勘も悪くないのに、自分のことは別なのか。
「うかうかしてると、鳶に油揚げをさらわれちゃうよ?」
「…」
「というか、それを警戒して、僕達に名前さえ教えなかったんでしょ?」
たぶん、篠宮は僕達を認めてくれている。だからこその牽制だ。
それは大いに光栄だけれど、警戒するのが僕達だけで事足りるはずがない。
篠宮が心配するような「恋愛対象」ではないにしても、彼女は僕達が気に入ってしまうほどには、魅力的だ。
「無駄な抵抗だったがな」
「…篠宮、面白すぎなんだけど」
結局、僕達が彼女の名前を知り、その名を呼ぶことが気に入らないらしい。
蘇芳祭のワンポイントテニスレッスンで、彼女の名前を知ったと思っているようだけれど、実はそうではない。あの催しでは、参加者名簿などは特に作成していない。
レッスン時に簡単な自己紹介はしたけれど、僕は彼女を担当していないし、担当した祐は名前さえ確認していない。僕達がそれを知ったのは、彼女の友人からだ。
「僕達が名前を知ったのは、友達がそう呼ぶのを聞いたからだよ」
「…」
篠宮が僅かに目を見開く。
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