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白く曇った窓ガラスに伝う雫。
聞こえる雨足の激しさが、今日の天候の悪さを物語る。
その様はまるで俺の心情みたいだな…なんて、らしくない事を考えてしまう。
圭に近付くのを止めて暫く経つが、それはあまりにも長く…想像以上に堪えるものだった。
部活であの小柄な背中が視界に入る度、不意に何度も抱き締めたい衝動に駆られる。
…だが、それは出来ない。
自身の欲望に負け…無理に襲い泣かせてしまった俺には、アイツの側に居る資格は無い。
恐らく圭も、俺の我が儘に振り回されなくて清々しているだろう。
そう…自業自得だ。
窓の外を眺めていると、いつかの記憶が脳裏に過ぎる。
『速水さん!あの、良ければ一緒に練習させて下さい!』
全てはあの日、圭の一言から始まった。
なれ合う事に興味が無かった俺の前に突然現れた干渉者。
圭の明るすぎる絡みは時折理解出来ない時期も有ったが、いつしかそれが自然となり…気付けば隣にアイツが居ないと落ち着かないまでになっていた。
そして向けられる視線、表情、声…仕草にすら心を乱されるようになり、それが友情じゃないと気付くのに差ほど時間は掛からなかった。
側に居てくれるだけで幸せだったのに…それ以上の関係になりたいと願ったのは、高望みだったのかもしれない。
後悔してもどうしようも無い事は分かってる。
もう戻れないんだ。
だが一つだけ…心残りがある。
俺は結局、あの言葉だけは一度も口にする事が出来なかった。
それを口にしてしまうと、後に引けなくなるような気がしていたから。
後悔している今となっては…その選択は間違っていたのかもしれない。
ピンポーン
「?」
インターホンが鳴った。
壁時計を確認すれば午前11時。
普段なら滅多に訪問者がない時間だ。
…こんな悪天候に一体誰だ?
微かな疑問を浮かべながら、俺は重い足取りで玄関に向かいドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開いく。
「…はい………!」
一瞬、呼吸を止めてしまった。
俺の視界に入ったのは…水滴を全身から滴らせ、肩を上気させた圭の安堵に満ちた笑顔。
「…っ…良かった…居た…」
…そんな風に笑われたら、受け入れてくれるんじゃないかと錯覚してしまう。
淡い期待が、再び俺の理性を蝕んだ。
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