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以前に一度だけ部活の後に先輩達と遊びに来たことがあったから、何となく部屋の場所は覚えている。
短い廊下を歩いて音がするリビングに顔を出せば、透也さんが黒いソファーに腰掛けてテレビを見ていた。
そして俺に気付き、肩越しに振り向く。
表情が出会った頃のように堅く感じ、思わず怯みそうになったけど、それを何とか堪えてお礼を伝える。
「あの…ありがとう、御座います。風呂まで貸してもらって」
「…いや、構わない」
そして透也さんは俺をソファーに座るよう促してから立ち上がった。
「何か飲み物を取ってくる」
それだけ告げ、俺の側を横切りその場を離れた。
パタンと閉まる扉に…心が沈む。
多分…気のせいじゃない、よな。
ここに来てから、透也さんは俺とマトモに顔を合わせようとしない。
何となく、予想はしてたけど…やっぱりキツいな。
重い足取りでソファーに腰掛け、膝を抱える。
俺の選択は正しかったんだろうか。
考えれば考える程、悪い方に行ってしまう。
いや、ダメだ。
こういう時こそ…笑わなきゃ。
どんな結果でも構わない筈だ。
でないと俺も…前に進めない。
自然と拳に力が入る。
そして背後で扉が開く音がした。
また緊張が押し寄せてくる。
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