【五刺し】

4/13
178人が本棚に入れています
本棚に追加
/330ページ
「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨を入れていくっていうのはね、その人の命を預かるっていう事なんだよ」  そう言いながら、人差し指から滴る血液をペロリと舐めながら話を続けた。 「だから、本来は医師免許がいる行為。だからこそ、施術部屋は診察室であり手術室と同じでなくてはならないと思うんだ」  言葉の語尾が《思うんだ》と言っている時点で、彼に言っている事は、全ての刺青師が同じ考え方をしている訳ではないのだと暗に示していた。 「消毒にしろ、麻酔にしろ、薬にしろ。彫り主の体を第一に考えなくてはならなからこそ、ここまでしっかり揃え、準備している。刺青は芸術であり、魂である以前に、人の体だからね」  持論を織り交ぜながら、”刺青”の内容・出来栄えより、まずは”彫り主の体”を第一に考えているという事を、きちんと説明はするものの、大切な一言を付け加えた。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!