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貴族たちが好んで使う香水とは違う、生きた花の爽やかに甘い香りがした。
「何かつけてるのか?」
思わず聞いたシンデレラに、彼は首を振った。
「いや?何も。おまえこそ、何かつけてるだろう」
貴族が香水をつけるのは当たり前だろうが、とシンデレラは自分の事は棚に上げて呆れる。
この世間知らずは、いったいどこの田舎大貴族の御子息だろうかと、ついいたずら心が動いた。
「ああ。つけてるぞ。匂うか?」
「良い香りだ」
香りを吸い込むかのように軽く目を閉じた彼の肩に手をかけ、軽くひけばその場に倒れる。
「堪能してみるか?」
やわらかな下草の上に、きょとんとした目で自分を見上げたままの表情に、シンデレラは笑った。
『新鮮だな、この表情』
貴族だったら、こういうシチュエーションになったときには、「ああ、そういうことね」と訳知り顔で目を閉じる。
貴族の世界であれば、相手が男でも女でも、それは変わりはない。
たまたまシンデレラはこれまで貴婦人しか情人に持ったことはなかったが、
『1人ぐらい、男の恋人がいるのもいいかもな。こういうタイプなら…』
と、まだ訳がわからないようにしきりに瞬きをしている目を見おろしながら、その頬から耳にかけて指先をすべらせた。
「えっ?」
男が本気で驚いたように、さらに目を見開いたのが夜目にもわかる。
『ますます新鮮だ』
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