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リードされ、戯れながらゲームを楽しむかのような人妻たちとの情事とは違い、自分がこの何も知らないこどもに『教えてやる』のだと思うと、かすかな興奮をおぼえる。
しかし。
「ななななななにするんだ!」
シンデレラが、ムードたっぷりに目を閉じて唇を寄せたときに、かえってきたのが悲鳴のような声だった。
「なにって…」
これまでこの状況で、こんなリアクションをされたことのないシンデレラは、いたく不満だった。
「キスだろう、当然」
「キスだと?お前は母上でも父上でも乳母でも、ましてや私の妻でもないだろうが!なにをいきなりおまえはおまえはおまえは!」
興奮して言葉の止まらない口も、じたばたと起きあがろうともがく様子も、何故だか苦笑してしまうぐらいおかしくて、かわいくて、シンデレラは我知らず優しい声になる。
「キスだ。したことがないのか?してもらったことも、してやったことも?」
ご令嬢がたのなかでは「失神してしまうわ」との評判も高いその笑顔が効いたのか、言葉ももがく動きも瞬時に止まる。
「母上のキスを知っているなら、わかるだろう?…大丈夫だ。」
そっと、唇を重ねてやる。
驚かさないように、ゆっくりと。
シンデレラの、これまでの生涯で一番優しいキス、を。
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