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あの夜の情事は、非常に惜しいことに結局途中で中断させられてしまったのだ。 どちらも激しい息遣いの中で、シンデレラが左右に開いたシャツの胸に舌を這わせようとしたとき、遠くに聞こえた声に腕の中の身体がびくりと反応した。 「…様…どちらに…」 驚くほどの勢いで身を起こし、身繕いもそこそこに彼は立ち上がった。 「い…行かなきゃ、いけない」 ひどくうろたえているように見えるのは、今自分が何をしようとしていたのかに、遅まきながらも気付いたからなのだろう。 背を向けようとした彼が手にしていた絹のスカーフを、まだその場に座ったままだったシンデレラが咄嗟に掴んだ。 彼の体が、がくんと止まった。焦ったような顔で、シンデレラを見おろす。 「…何を」 「名前を教えてくれ」 自分で言った言葉に、シンデレラは自分でも驚いていた。 今までこんな刹那的な情事で、相手の名を聞いたことなど一度もなかった。 貴族同士であればいずれまたどこかで出逢うだろうし、それがなければそれだけの相手だったのだと一夜の恋と割り切って楽しんでいた。 けれど、どうしてもこのまま彼を帰したくはなかった。 「放せ」 スカーフを引く。が、シンデレラも離さない。薄い上質な絹は柔らかに強く、闇の中その白さが鮮やかに浮かび上がった。 「放して」 声が泣き出しそうで、一瞬ひるんだシンデレラだったが、 「名前だけ。それだけ教えてくれれば、放す」 と、思惑を持って強く引いた。 バランスを崩した彼はシンデレラの前に膝をつく。 と、少しイラだったような表情で、 「名前なんか…そんなもの、何になる」 思いがけず強い口調で言った。が、シンデレラも負けてはいない。 「夜、窓の外から呼ぶとき、お前の名を知らなければ、逢瀬がかなわない」 その言葉に彼が驚いたように目を見張り、次の瞬間小さく笑った。 「何を言うかと思えば。そんな戯れ言は、どこかの姫にでも言っていろ。かなりの強者のようだな、お前」
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