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と、 「しまった!」 シンデレラは慌てて立ち上がった。 その拍子に、胸に載せていた本が落ちたことにも気付かずに、あたりを見回す。 さっきは風のせいで気付かなかった、薔薇ではない他の花の香りがしたのだ。 『この香り。彼が来たのに、俺は!』 舌打ちして、シンデレラは走った。 今ならまだ間に合うかもしれないと、中庭の大理石の飛び石を蹴り、噴水の前で愛を語り合う恋人たちのすぐ横を無粋にも走りすぎ、広間のテラスの手すりを飛び越える。 庭にむけて開け放たれていたドアから突然現れたシンデレラのいつにない様子に、令嬢たちは驚きながらも、この場の事実上の主人公の出現によろこびを隠せない様子だった。 わっとばかりに集まる彼女たちをかき分けながら、シンデレラは広間を見回した。 どの顔も自分のほうを見ている。が、そこに自分が探している顔はない。
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