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「シンデレラ!シンデレラはどこ!?」
今日も甲高い声が屋敷中に響き渡る。シンデレラはうんざりとした顔で、構えていた剣を下ろした。
ちょうどシンデレラがいる中庭の回廊を、頭から湯気をだしながら義母が通るところだった。
「ここにいますよ、義母上」
「いるのなら返事をなさい!ああ、まだそんな格好をしているのですか。さっさと…」
「今夜はどちらの夜会に?」
「憶えておきなさい、それぐらい!よりにもよって王宮の夜会だというのに!」
「はいはい」
「さっさと着替えておしまいなさい!先日作った夜会用の礼服があるでしょう!」
『いっぱいありすぎて、自分じゃどこにあるのかさっぱりわかりませんよ』
口に出すと義母がますます面倒になるので、その言葉はのみこんで小間使いの少年を呼び、部屋に礼服を用意させる。
「さっさとなさい!さっさと!」
高々と結い上げ、たっぷりと銀の粉をふりかけたかつらの頭を振りたてながら、義母はその場をあとにした。
「流行のファッションを身につけられるのはいいけど、それ以外はまったく面倒だ」
非常に端正な、良家の子息らしい見かけにそぐわぬ、街言葉だった。
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