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その答えを聞いて、シンデレラははじめて彼に口づけた。
ゆっくりと上半身だけを寄せ、唇でなく、その頬に。
くすぐったそうに首をすくめ、笑いながらキスを受けて、彼は言った。
「今夜はまた随分と張り切った服装をしているんだな。」
実際シンデレラの服装は素晴らしかった。
一見した派手さではなく、その服を着る者の持っている揺るぎない存在感を際だたせるために作られた、まさに『シンデレラのための服』だった。
他のすべての仕事をストップさせて掟破りの二日間仕上げという荒技を洋裁店に押しつけて、出来上がった衣装を前にしたときに義母は「もっと派手に金を使えと言ったのに!」と叫んだくせに、添えられていた請求書を見てあやうく卒倒しかけたのだ。
黒に見えるほど深い紫を基調として、襟元から胸元へ細かく入れられた銀糸の精密な縫い取り。
カフスに使われている、小さくとも希少で美しい宝石。
それはこの国では真珠の次に高価な紫水晶だった。
シンデレラのためのデザインだと、仕立て屋は満足そうに笑っていた。
実際、濃紫と銀に透明な輝きが添えられたその夜会用の礼服は、シンデレラにとてもよく似合っていた。
夜会のための服である筈なのに、どこか『美しい軍服』にも見えるのは、シンデレラ自身とその黒く強い瞳のせいだった。
久しぶりに思う存分腕を振るわせていただいたと仕立て屋が言ったので、シンデレラは「それはよかったな」とだけ応えておいた。
正真正銘の成金の義母とは違い、生まれたときから家名はなくとも贅沢には慣れていたシンデレラは、「いくらかかってもいいから、一流のものを作れ」という義母の言葉通りにしただけだと、青くなって震えあがっている小間使いの少年に向かって皮肉っぽく笑ったのだった。
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