42人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
腕の中の者は答えない。まだ息が整わなくて、答えたくても答えられないようだった。
しばらくしてようやく彼は半裸のままでゆっくりと体を起こし、とろりとした瞳のままで身繕いをはじめた。
シンデレラは彼の細い首に白い絹のスカーフを結んでやり、髪を手櫛ですいてやってから仕上げに小さなキスを頬に落とす。
彼は少し顔をうつむけて笑った。
そうと知って見るせいか、最初に会ったときの少年のような硬質さが影をひそめ、かわりにどこかにほのかな艶を含んだ笑みだった。
東屋のベンチでそんな愛人を胸に抱き締め、シンデレラは至極満足だった。
この艶は、自分が染め上げた自分だけのための色香なのだ。
ついばむように口づける。
髪に頬にこめかみに。
最初のコメントを投稿しよう!