5.扉

1/9
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ

5.扉

「僕が守ると言ってるじゃないか」 サムエルが家猫の姿で、私の腕に抱かれたまま文句を言う。 「信用ならねえ」 返事をしたのは拓人だ。 「なんで同じベッドで寝る必要があんだ!? 今日からてめえはうちに来い!」 「やだよー、なんで男の世話になんか」 サムエルは私の身体をよじ登ろうとする。 そんなこんなで、拓人はうちに来ると言って聞かず、一緒に我が家に帰宅した。 「ただいまー」 「おかえり、梨沙!大変、サムエルがいなくなって…! あら、何処にいたの?」 学校です、とも言えず。 「うん、町内パトロールして、私のお迎えに来てくれたみたい」 「なーう」 サムエルは声を上げて肯定した。 「まあ、賢いわねえ……。あ、ほら、見てサムエル、可愛い首輪、見つけたのよ!」 金色に染められた革にビジューが縫い止められた、華やかな猫用の首輪だった。 「あなたに似合いそうだと思って」 手を伸ばしてきた母から、サムエルは逃げ出した。 ソファーの下に逃げ込む。 「あら?」 「そういうのは嫌いみたいね」 私がフォローする。 「残念ー」 「ほほう」 拓人が悪い笑みを浮かべて頷いた。 「折角買ったのに勿体無いですよね、俺が着けておきますよ」 母は嬉しそうに首輪を渡す。 「今日はどうしたの?」 拓人が来た理由を尋ねた。 「あ、その。受験生だし、受験勉強を梨沙としようかなと」 「まあいいわね。あとでオヤツ持って行くわね」
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!