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夢とネジと◆レジ王子◆
『もうやめてやる!』
心の中でそう叫んだ芽唯(めい)は、立ち上がり、教室を出た。
静かな廊下を激しく駆ける彼女は、右手で涙を拭う。
左手は、ブルーのキャップを強く握りしめていた。
ファッションデザインの専門学校の校門を潜った芽唯は、そこで立ち止まる。
幼い頃から憧れだったこの学校の、煌びやかな校門を見ると、色んな思いが舞い降りてきた。
高校からそのまま専門学校へ進むお金はないと、母に言われた。
それからアパレルショップに就職をして、大好きな服のことを学びながら、お金を貯めた。
友達からの誘いもたくさん断った。夢を諦めたくなかったから。
そして、高校卒業から3年後、遂にこの学校に入学できた。
ワインレッドとスカイブルーで彩られた輪っかの校門を潜った時、嬉しくて鳥肌が立った。
しかし、実際この門を中から見ると、ただの冷たいコンクリートの壁だった。
結局どこの社会もピラミッドだった。自分は、底辺も底辺。
一週間もすれば、自分に才能がないことが分かって、床ばかり眺めてた。
そして、夏休みの発表会が近づいた今日、ダメ元で、殆ど寝ずに作ったこのキャップを教室で発表した。
「はい。じゃぁ次」
「え?」
芽唯は、黒髪で鋭い目つきの先生の声を聞いて、フリーズした。
自分の持ち時間は、終わっていたらしい。
結果は、全員無反応。拍手もない、というよりも見てもくれてなかった。
少し仲良くなったはずの数人も、自分達の発表する服や携帯を見ていた。
静かに席に戻った芽唯は、全員の発表が終わり、先生がまとめようとした瞬間、静かに教室を出た。
期待してくれた母のことを思うと、涙は止まらなくなった。
目を擦ると、薄めのアイシャドーが掌に付いた。
評価されなかった自分のキャップを深く被って、彼女は鮮やかな校門から逃げるように、また走り出した。住宅の並ぶ坂を下りて行く。
「もうやめよう…。また、アパレルショップで働くか…、大変なこともあったけど、楽しかったし…。でも…、夢を諦めたこと思い出しちゃうから…、他の職業がいいかな…。あぁ相談する友達もいないや…。お金貯めるために、冷たくしちゃったから…。はぁもう…ダメだ……」
ポタ…ポタ…
手に零れたのは、涙と汗だった。
「う…」
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