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「この景色とその帽子を、最後に見れて本当によかったよ」
おじいさんの声が掠れていた気がして、芽唯はおじいさんの顔を見た。
「かっ、会長ぉぉーーーーーっ!!!」
綺麗な景色の下で、雑音のような声が響いた。
叫んだのは、下から坂を走って来たスーツの男性だった。
「おじいぃぃーーっ!!」
スーツの男性の後方に、おばさんや若い男女達が見えた。
彼らの言葉の意味を理解した芽唯は、おじいさんを見る。
「え…会長?……」
「あんたぁぁーーー!!」
ガッ――
芽唯は、体の大きなおばさんに、肩を掴まれた。
「金目当てかぁ!!殿をどこに連れて行く気じゃぁー!!殿に何かあったらぁぁー!」
叫び続けるおばさんが恐くて、芽唯は泣きそうになる。
殿なの?!芽唯は心の中で弱いツッコミを入れた。
おじいさんが事情を説明しようと口を開く。しかし、何かに気付き、そのまま口を閉じた。
おばさんの肩に、誰かが後ろから触れる。
「違いますよ!彼女が全部助けてくれたんです!」
「え?あ、そうなの?じゃいいわ。ありがと」
手を放したおばさんは、おじいさんの方に近寄った。
芽唯が、聞き覚えのある声だったと思いながら見ると、そこには、さっきのイケメン店員がいた。
レジ王子ぃぃ―――――――――!!!
芽唯には、本当に彼が青空に浮かぶキラキラの王子に見えた。
「大丈夫?やっぱり病院から抜け出した方だったらしいんだ」
レジ王子は、血管の浮き出た細い腕を伸ばし、芽唯の両手を掴む。
「無事でよかった…」
「え?…」
芽唯が唖然としていると、彼はすぐに手を放した。
「あぁ、ごめんごめん。何か…失礼しました」
芽唯はドキドキが止まらなかったので、震えながら深呼吸をする。
「会長ぉぉーーっ!」
「おじいちゃぁーん!」
「殿ぉぉーーっ!!」
「ケビーーーン!!」
スーツの男性やおばさん達は、おじいさんに抱き着いた。
「い、一体何者なの?」
芽唯の言葉に、首を傾げながら、レジ王子は「さぁ…」と言った。
いや、ケビン?!誰かケビンって言った?!ケビンではないよね?いや殿もおかしいわ!
芽唯はツッコミながら、おじいさんを凝視する。
ブ――ン…
「あ、車が来た」
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