第1章

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俺の母さんは少女のような人だった。 もともと童顔ということもあるだろうがとても年相応ではない。 これは俺の勝手な思い込みかも知れないけど、母さんは8年前から変わってない気がする。 父さんは8年前、交通事故で亡くなった。 巻き込まれ事故だった。現場は酷い状況だったらしい。 知らせを聞いた母さんはその場に泣き崩れた。 当時まだ小学生だった俺はわけがわからなかった。 だけど母さんが泣いたのはあの時だけだった。 葬式も四十九日も母さんは無事に終えた。 翌日、朝になっても目を覚まさない母さんを見た俺は、疲れてるのだろうとそっとしておいた。 が、夜になっても目を覚まさない母さんに不安を覚え、当時学校で習ったばかりだった119番に電話した。 病院に運ばれた母さんは初め、たくさんの管に繋がれた。 そんな姿の母さんを見るのはとても怖かった。 数時間後、病院から知らせを受けた祖母が駆けつけてくれた。 祖母が来た安堵からか、俺は泣き出してしまった。 「りおちゃん、大丈夫よ。眠ってるだけですって。」 「お母さんもいなくなっちゃわない?」 「ええ。ママはいなくなったりしないわ。」 その後の数日間、母さんは死んだように眠った。 このまま母さんまでも死んでしまうのではないかととても不安だったのを覚えている。 眠りから覚めた母さんは元気だった。 まるで何事もなかったように。 そう、父さんが事故で亡くなったことを忘れてしまったように。 それからだったと思う。母さんがどんなに歳を重ねても老いなんて見えなくなったのは。 もう四十代なんだから少しくらいしわが出来てもいいはずなのにない。 今でも母さんは遺品で返ってきた父さんの血が滲んだシャツを毎日洗濯している。 本当に父さんの事故の記憶がすっぽり抜けてしまったように。 きっと母さんの時間は8年前で止まったままなのだ。
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