第1章

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ウェラーが弁護士に連絡する、という考えが起きない状況に陥れ、かつ現行犯逮捕できる状況にならなければならない。相手はそこいらの犯罪者ではなく上院議員だ。確かな証拠と確かな事件がなければ逮捕したところで、裁判でひっくり返される。だからユージは、<狂犬>で事件を起こさせるのだ。  <狂犬>は黙ってユージの説明を聞いている。沈黙は了承と受け取った。 「出来れば1、2発撃たれろ。そうすればお前の反撃にも正当性が出るし、俺が踏み込む口実にもなる。だがこれだけは忘れるな。ボディーガードは勿論、ジェームズ=ウェラーも殺すな。例え…… お前にとって逆鱗にふれるような惨状があったとしても、だ」 「<マリア>になにかあれば…… 保証できない」 「誰も殺すな」  そう念を押すとユージはバッグの中から未登録の38口径リボルバーを取り出し、弾を抜いて一発だけ装填した。  その銃を<狂犬>が受け取ろうと手を伸ばす。が、ユージは制した。 「デトリス刑事と爆弾の場所を言え」 「<マリア>を保護したら、教える」  それが最初の約束だ。まずは刑事、そして保護後に爆弾。 「途中でお前が死んだら聞きだせん」 「俺を、殺す気だろう」 「これは取引じゃなくて命令だ。教えなければ、今からでもお前を連れてNYに戻る。連れて帰るのは死体でも構わない」 「…………」 「お前の一番の目的は何だ? <マリア>を救う事だろう? その作戦を俺たちがすぐに行うか、ゆっくり正攻法で行うかしかない。本当はデトリス刑事と爆弾、双方確認が取れて初めて対等の取引になる。だが俺はお前に尽力している。お前は俺に誠意と信頼感を提供しなければならない」  そういうとユージは懐から携帯を取った。まだボタンは触っていない。  数秒間…… <狂犬>は鋭い眼で睨んでいたが、小さく頷いた。 「刑事は…… ブルックリンの墓場だ。橋からそう遠くない、住宅地の中の古い墓地だ。すでに掘ってあった墓穴に棺桶に入れて土をかけた。白い塔がある墓地だ」  ユージはボタンを押した。相手はエダで、エダはその報告を聞くため自宅で待機している。エダにはサクラより強い第六感があるし、NYの地理にもNYPDにも精通している。ブルックリン大橋が見える場所で、すでに掘ってある墓場は限られているはずだ。  ユージは自分の予想もいれ、その内容をエダに伝えた。
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