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そしてコールに連絡する事、NYPDに伝える事。その手順を説明していた。その間にも<狂犬>は爆弾の場所を喋っている。爆弾は地下鉄に仕掛けられ、時限式で明日正午に爆発するようにセットしていた。<狂犬>はアメリカ人でもNY市民でもないから、ややこしい駅名は覚えていなかった。できるだけ細かく話を聞き、時にユージのほうで質問し、場所を推理する。そう難しい事ではない。
「Aラインのセントラルパーク南からダウンタウンに向かって3駅くらいの場所…… 多分42stから34stの間だ。柱の陰に圧力鍋に入れて放置してあるそうだ。……見つけたらメールで報せてくれ」
ユージは携帯電話を仕舞った。NYの駅の多くは色と番号で表記されるし、いくら外国人の<狂犬>も脅迫をかけるため仕掛けた爆弾だ。場所を間違えることはないだろう。
「今のが嘘だったら、即その場で殺すからな」
「信用しろ」
「それはお互い、だ。何があっても俺の指示に従うと誓え」
「信用しろ」
ユージは鋭い眼で<狂犬>を見つめる。二人は数秒睨み合った。そしてユージは一発だけ弾の入った38口径リボルバーを差し出した。
「ボディーガードを倒しても銃は奪うな。お前に与えるのはこの一発だけだ。銃撃戦になったら俺が駆けつけ処理する。お前の経歴なら、そのくらい可能なはずだ」
無表情のまま<狂犬>は銃をズボンに突っ込むと、黙ってユージに背を向け車に乗り込んだ。
ユージは立ち上がりサクラの元に行った。サクラはラテンスキーのバックアップをしながら、ウェラー邸のセキュリティーを弄っている。
「もう元に戻っていいぞ」
「ほーい」暢気な調子でサクラは答えると、一瞬で髪と瞳がいつもの紅色に戻った。
「なんだ…… サクラちゃんも潜入するかと思ったのに」
「お前を潜入させたなんて報告書に書けんだろう。それに俺たちをアナリストとしてバックアップを人間がいないと困るしエダからの連絡もある。<狂犬>が嘘をついているかもしれない」
「あたしも会話聞いてたケド、嘘はついてなかったゾ。……それよりサ」
サクラは一度<狂犬>を見て、日本語で呟く。
「あのオッチャン、自分がどうなるか知ってんの?」
「理解しているだろう」
「司法取引は、ない」
サクラの言葉に、若干同情が篭っていた。サクラの正義感からいえば、<狂犬>が殺したのは悪人たちで、不幸な少女を救おうと必死なナイトだ。
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