第1章

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10  ウエストブルックリンにある閑静な住宅地。時間は午後11時を過ぎ、家々の明かりもまばらになっている。  FBI・NY支局長コール=スタントンの家がそこにあった。  妻とやや遅めの夕食を摂り終えたコールは、書斎でクラシックを聞きながら寝る前のワインを傾けていた。普段はバーボンを飲むが、今は事件が起きているから深酒は避けた。コールとしては、NYPDが無事デトリス刑事を保護し、ユージが<狂犬>を確保した……という報告が聞ければ、心ゆくまで寝酒を楽しめるのだが…………  そしてグラスに注がれたワインを飲み干そうという時、携帯電話が鳴った。発信者を見る。ユージからの電話だった。コールは支局室にいるときと変わらず、無表情でしばし考え、5コール目で携帯電話を取った。 「なんだクロベ」  深夜の電話だが、それに苛立つようなコールではない。FBIという普通ではない職業に就いて30年近いキャリアがある。 『実は今、ニューヨークステート・スルーウェイを移動中です』 「市内じゃないのか。何で北に向かっているのだ?」 『<マリア>保護のためです。<マリア>本人はまだ見つかっていませんが有力な情報を得ました。夜分すみませんが、検事から令状を取ってほしい』 「いつになく真面目じゃないか。令状なしで引っ張って無理やり逮捕するのがクロベだろ」 『相手が上院議員だと話は別です。報告書はメールで送りました』 「なんだって!?」  コールの心地よい酔いは、一瞬で冷めた。そして、すぐに自分のラックトップを持ち出し起動させ、FBI本部の自分のメインPCと同調作業に入る。 「容疑者の名前は?」 『ジェームズ=ウェラー上院議員です。デラウェア州の議員で、インディアン・リバーレイクに別荘を持っています。そして半月前から今も滞在している事は確認しました』  ジェームズ=ウェラーという名前を聞いて、コールの表情が険しくなり数秒沈黙した。  実はマック捜査官から提出された性犯罪者リストに、ジェームズ=ウェラーの名前はあった。しかしマックの評価では、ウェラーは<候補C>で、怪しい経歴は海外で10代の少女を買春の過去がある事。ジャパニーズコミックの愛好し、米国内では若いコールガールとの関係をもった事がある。この3点だけで、裏社会との接点はない。
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