第1章

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 レスラーにはなんとなくバルガス議員の意図が分かった。  ……恐らく今NYで集まっている東海岸上院議員特別委員会の案件に関する事だろう。委員会では今期提出した法案、今来期予算案等の案件で、ウェラーとバルガスの意見の一致をみない点もあるし、逆に自然災害に対する法案では共同意見を出している。上院委員会会議の後共同チャリティー・パーティーをNYで開く事になっているが、VIPの中には秘密倶楽部で接待するという相談も受けていた。今回の私的な交流によって、それらの諸問題やお互いの妥協を水面下で話し合いたい…… こういう政治の寝技話は、長年政界を見てきたレスラーには理解できた。試しに彼自身が知っているバルガス議員の携帯電話に電話をかけてみたが留守電で繋がらなかった。今夜、彼は携帯電話の着信相手を限定者に設定しているようだ。それだけ裏に関する案件という事だろう。老練で狡猾、そして好色と駆け引き上手にかけては、バルガス議員は超一流であることをレスラーは知っている。  その後二、三の質問の後、ラテンスキーを本館に案内することに決め、その手続きをすぐに始めた。 「潜入成功♪ しっかし、随分出来すぎた話を信じたモンだ」  ラテンスキーから自動的に送られてくる映像や音声をラックトップで整理していたサクラが呟く。 「まるっきりデタラメじゃない。だから連中は信じただろう」  ユージは特殊工作用の手袋を填めながら答える。  政府の高官や資産家の仲間内で少女愛好の秘密倶楽部が存在する事、アラン=バルガス議員が秘密倶楽部に関わっている事。その少女たちの調達がロシアン・マフィアの大物モーリス=ウラジミールが関わっている事は、マック捜査官の報告書とユージのもつ裏社会のコネで確認して、話をでっち上げた。勿論、嘘話といっても状況証拠や裏づけは十分あるし、現にラテンスキーの話にライアン=レスラーは食いついた。相手が政治家でなければ逮捕する事もできただろう。だが相手は黒を白にも赤にも言い換えることができる有能弁護士団を抱える事ができる金持ちの上院議員だ。余程決定的な黒を掴まなければ、どうにもならない。  ユージは屋敷のほうを一瞥し、覆面を被った。ボディーガードの始末は<狂犬>だけの仕事ではない。正面のボディーガードを退治するのはユージの仕事だ。
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