第1章

26/33
前へ
/33ページ
次へ
だがこのボディーガード・チーフの携帯も繋がらない。 「バストンを呼び出せ! どうなっている!」  バリー=バストンという名のボディーガードは屋敷内担当のオペレーター係で、屋敷内外全ての監視カメラをチェックしている男だ。バリー=バストンと連絡は取れたが、つい今しがた全ての監視カメラに異常が発生し、モニターが死んでしまったというのだ。その報告にはさすがのレスラーも顔色を変え、声を荒げて事態の説明を求めた。しかし大声を出されても、突然セキュリティー機能全てがシャットダウンするなど、バストンもこんなことは初めてで何が起きたのか理解できていなかった。だがこれがラテンスキーと関係している事は明白だ。  ……あのロシア人には仲間がいたのか……!? 「あのロシア男を連れて来いレスラー! 殺さずにだ! 話はそれからだ」 「セキュリティーはハッキングされた可能性があります。バストンにもロシア人を追わせましょう」 「ああ! そうしろ! お前も早くロシア人を追え!」  黙って頷くレスラー。その時だ。一発の銃声と、同時に若い男の奇声が二人の耳に届いた。銃声は何が起こったか分からないが、奇声のほうは何か分かる。五月蝿い馬鹿息子がいたことを今、思い出した。そして少々厄介な状況だと気付いた。 「ジュニアはまだ遊びをやめておらんのか!」と舌打ちするウェラー。 レスラーの関心は今鳴った銃声についてだ。方向は屋敷の北西の方角からのようだった。ラテンスキーの逃走した南方向とは違う…… 「あのロシア人の話では、バルガス氏は<人形>を欲しています。どこまで本気か分からない話で信じてはいませんが、<人形>を欲している者がいるのは事実かもしれません。もしロシア人が何者かに依頼もしくは脅迫されていたとすれば、逃げるのではなく力づくで<人形>を奪っていくかもしれません」そう早口で告げ、レスラーは懐から9ミリ拳銃を取り出した。  その時だ。レスラーの携帯電話が鳴った。レスラーは黙って歩き出すのをやめ懐から携帯電話を取り出す。モニターにはボディーガード・チーフの名前が表示されていた。 『電話報告ですみません。今、お探しのロシア人を確保しました』 「…………」 「ロシア人を確保しました」  ボディーガード・チーフ、ニコラス=ブラウンは口元の血を拭い、口内に入り込んだ血を一度飲み込む。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加