第1章

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ユージ=クロベというチートな裏社会の<死神捜査官>のことは知っていたし、その影響力がいかに強大か知っている。何せ表側は米国政府、裏には数多くのマフィアやギャング組織が付いている。ジェームズ=ウェラーとは比べ物にならない。 「ラテンスキーを担いでさっさと案内しろ。いいか、少女たちのところまで案内させなければ取引はなしだ。裏切ったら終身刑か、その場で俺に撃たれる。それを忘れるな」 「分かっている」  ブラウンにとって完全に予想外だったのは、ユージが秘密倶楽部やウェラーが少女を囲い放蕩の限りを尽くしている事を知っていた事だ。ユージは状況証拠から考えて鎌をかけ恫喝したので知っていたわけではないが。100キロを越えるラテンスキーを一人では運べない。とはいえユージは手を貸さない。仕方なくブラウンは電話でバリー=バトスンを呼び、二人でラテンスキーの足を掴み引き摺っていった。その最後尾をユージが続いていく。歩きながらユージは耳に挿したイヤホンのボタンに振れ、状況を監督しているサクラに日本語で現状確認を行った。ウェラーの私兵はもうブラウンとバリトン、この二人しかいない。後はユージと<狂犬>が沈黙させた。ウェラーの位置、レスラーの位置は携帯電話の発信とラテンスキーからの映像で分かっている。  しかし、肝心の<狂犬>の正確な位置は分からない。敷地内で4人倒したところまではサクラが確認したが、その後<狂犬>は通信機を握りつぶしてしまった。屋敷のセキュリティー・カメラで追おうにも今はサクラが大部分のカメラを無力化させてしまった後だ。見た目に似合わず、アレツクスが注意していた通りユージやサクラが考えているより<狂犬>の知能は高いようだ。ユージたちの言いなりにはならない、という<狂犬>の意思表示だ。 「生き残っているカメラにそのうち映るだろう。問題ない」  証拠用に屋敷内のリビングやメインとなる廊下のセキュリティー・カメラは壊さずハッキングしてサクラが管理している。 どうせ行き着く先は<人形>のところだ。<狂犬>が約束を破り勝手な行動を起こした時は奴を逮捕すればいい。なんとでも対処できる。  リビングにレスラーを残し、ウェラーは地下室に向かっていた。普段は物置として使っているが、そこには防音処理を施され、4つも鍵の付いた秘密の小部屋があり、政治家として重要な資料や書類、株券などが収まっている。
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