第1章

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『立ち入り令状で構いません。もしくは保護令状でもいい。<マリア>を所有している、と<狂犬>が知れば命を狙われるのは確実です。もうこの情報は<狂犬>も知っている。保護命令でも構いません』  ユージの狙いは、要は別件逮捕で、本逮捕に漕ぎ付ける捜査方法だ。この手法自体は常道的なやり方で、荒っぽいが大物からチンピラ相手まで広く使う捜査法だ。ただし強引すぎれば逮捕はできても裁判で認められず容疑者を獲り損なう危険もある。 「それより<狂犬>を先に確保はできんのか」 『その努力はしています。だが確実なのはウェラー議員に接触することです。<マリア>がいてもいなくても狙われている事実は変わらない』 「わかった」  ユージの言い分はもっともだ。何より問題なのは、ユージがここまで言い切っている以上、あの男は令状がなくても深夜であろうともウェラー議員に接近し、詰め寄るだろう。コールにはそうなることが分かりすぎるほど分かった。その後始末に奔走するよりは、寝ている検事を叩き起こし説得するほうがよほどマシだ。  コールはユージに捜査続行を命じ、電話を切った。そして、すぐにガウンを脱ぎ書斎を出た。ユージは相手が誰であろうと容赦しない男だ。明確な犯罪だと判断すれば大統領であっても平然とホワイトハウスにも乗り込むだろう。ユージの無茶をなんとか筋を通らせるようにするのが、彼を部下として使う上司の仕事だ。  ニューヨーク州は広い。州の名を冠しているNY市は南の僅かな一角でしかない。世界一の都会NYから北部の五大湖周辺までを繋いでいるのが、ニューヨークステート・スルーウェイだ。他のフリー・ハイウェイと違い有料ハイウェイで、夜9時頃までは一般車が多いが、11時過ぎると大型トラックばかりになる。  そのハイ・ウェイを二台の車が時速200キロ近いスピードで北上していた。  一台は赤のフォード・マスタング・コンバーチブル。もう一台はトヨタの黒のSRVハイブリッドワゴン。二台ともユージが所有している車だ。どちらも防弾加工の上、エンジンはカスタムされている。マスタングはユージ個人の趣味用で、SRVハイブリッドワゴンは家族用だ。ちなみにどちらの車にもショットガン、SMG、自動小銃、各種弾薬、非常用医療キットや薬品がトランクの中に隠されている。この二台にユージ、拓、サクラ、そしてラテンスキーと<狂犬>が同乗している。
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