第1章

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 マスタングにはユージが運転、助手席にサクラ、後部座席に手錠で拘束され窮屈そうに横になった状態で乗っているラテンスキー。SRVハイブリッドワゴンは拓が運転し、後部座席には鎖で両手両足を縛られた<狂犬>が乗っている。乗っているというより積まれている感じだが。 「ねぇ~ユージぃ~ 屋根あげよーよぉ~ オープンカーらしくさぁ~」  元々オープンカーであるマスタング・コンバーチブルだ。幌はオプションのようなもので閉じれば車内は狭くなる。サクラは気分の問題だが、おまけのような後部座席に横になって座る大柄なラテンスキーはもっと窮屈だろう。むろん彼は文句がいえる立場にないが。 「今206キロだ。お前、吹っ飛んでも知らんぞ。第一今雨が降っている」 「ぐぬぬ~ 折角マスタングに乗れたのにぃ」面白くなさそうに拗ねるサクラ。基本、このマスタングはユージの個人趣味用で助手席に乗るのは基本エダか拓だから、普段乗せてもらえないサクラが興奮するのは当然だ。このあたりサクラは子供らしさがある。 『急ぐのは分かるけど、もう少しスピード落としてくれ。そっちとこっちじゃ馬力が違うし、ハイウェイパトロールに捕まるぞ』  内蔵スピーカーから拓の声が聞こえた。日本語だ。両車ともFBIでの使用車として登録してあり、無線機も搭載していて、現在両車は常に繋がっていて双方の会話は聞こえている。 「大丈夫だ。さっき州警察とハイウェイパトロールに俺たちの車のことは通達しておいた。止められる事はない」 「ちょっとギリギリだったケドねー」  ユージもサクラも日本語で答える。州警察が「スピード違反の一般車発見。犯罪の可能性アリ」と無線で報告が上がったのをサクラが別に持ち込んだ警察用無線傍受で知り、ユージはすぐに州警察に電話し、該当車はFBIのものである事と、緊急のため急いでいる事、この後面倒が起きないよう二台のGPS情報を報せた。米国の警察機構は面倒なもので、州、郡、市、さらにハイウェイや国立公園等、それぞれ違う警察組織になっている。どこが偉いというものではなくそれぞれ独立したものなので、一箇所連絡すれば済む物ではない。ユージはまず一番規模の大きい州警察に話を通し、他の郡警察やハイウェイ・パトロールにはサクラがユージの行った手続きを模倣し持って来ているラットクップで処理した。 「そんなに急ぐんならヘリにすりゃよかったのに」
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