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ユージが行おうとしている作戦は囮捜査で、かつかなり強引な手法だ。普通の捜査官が知ればその無茶苦茶な捜査に苦言を呈したり、もっとマシな正攻法をあげ協力を拒む可能性があった。形としては飽くまでユージと拓の独断の暴走、それをコールが庇う結果になる……
「ユージを部下に持ったコールのおっちゃんは大変だ~♪ <ジャック=バウアー>とユージ、どっちがマシかねぇ」と他人事にように呟くサクラ。それを聞いたユージは、珍しく無視せず答えた。
「そりゃ俺のほうがマシだろう。少なくとも俺は容疑者が即死しなければ蘇生させる腕がある。不慮の事故で容疑者を死なす事はない」
……強引な違法捜査は同じレベルって事じゃん…… と、サクラはユージの答えを聞き心底呆れる。自己中心的な性格で容疑者を射殺する数ならユージのほうが上ではないだろうか、とサクラは心の中で呟いた。
一方、後続の拓のほうは、同乗者は<狂犬>だけ。ユージと無線でやり取りする以外は、会話もない。スポーツカーであるユージのマスタングは楽に240キロが出せるようにカスタムされていて200キロで走るのは造作もないが、基本家族移動用に使っているSRVハイブリッドワゴンで200キロについていくのは集中力を使う。後ろにいる<狂犬>にも注意しなければならない。警察無線は常時聞いているがそろそろ拓も退屈になってきた。到着まであと一時間はある。音楽をかける気分でもない。
仕方なく、拓は<狂犬>と雑談する気分になった。
「もし<マリア>を見つけたとして…… お前はどうする?」
「…………」
「俺たちが<マリア>を見つけたら、<マリア>は保護されるだろう。でも、お前と一緒にどこかに逃がすことは出来ない。それはお前も分かっているだろう? 俺たちと協力すると決めた以上、それは変えられない」
「…………」
「ま…… 彼女の事を考えたら、当局に保護されるほうがいいよ。娼婦から足を洗えるし、未成年なら保護施設もある。ユージは女の子には甘い男だから、きっと普通の生活に戻れる。それは確約するよ」
「……普通の……生活……」
その時、初めて<狂犬>が口を開いた。その声は淋しげで、拓の話を喜んでいるようには思えなかった。
「<マリア>は…… お前たちのいう、普通の生活など、知らない…… できない。誰にも、彼女の心は……開けない」
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