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草の生い繁った畔道は夏の陽射しにさらされて、踏みしめるたびにむっとする強い土の匂いと草いきれが立ちのぼる。亮太はふぅ、と息を吐いて空を見上げた。
「暑いな」
手の甲で額を拭うと、すでにかなりの汗をかいていた。陽射しは強いが青々とした苗の並ぶ水田を吹き抜けてくる風が爽やかなのが救いだ。亮太はぐるりと四方を見渡した。
彼方に街が見え、そのさらに遥かにまだらに雪の跡を残す北アルプスの峰がブルーグレーの屏風のようだ。田園と山脈。写生するには絶好のロケーションではある。
だが亮太は北アルプスには背を向けて畦道を歩き続ける。その行き着く先はアカマツの茂る緩やかな山だ。
前回来たのは桜の頃だった。ゼミ仲間がスケッチ散策をしようというのに参加させられてついてきただけの場所だったから、一人で来てみたら記憶があいまいで、たどり着くのに苦労している。
水田がとぎれ、ぽっかり開けた空き地に山側に張りつくように古びた建物と桜の樹かあった。古い土蔵だ。ところどころ漆喰がはげ、瓦が一部崩れてはいるが朽ちかけているようには見えない。
「やっぱりあった」
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