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時刻は夜になろうとしていた。夕飯の時間だった。机には夕飯があった。彼は家に帰れるのは何時になるかわからない、と思いながら豚汁の椀を手に取った。彼女は椅子にめり込んでいたが、もはや修正する気はなさそうだった。
「どうして道路にいるのに自宅が出てくるの」
彼は彼女の言葉からWhyの意志を感じたが、何を疑問視しているのか一度聞いただけでは分からず、とりあえず「何でしょう?」と聞き返した。
「このハンバーグ食べられるの?」
彼女は準備されていた豆腐ハンバーグに手を伸ばしたが、彼女が触っているのは道路の中空で、彼には何をしたいんだろうという感じの動作に感じられた。まあ素手で食事を取るのはマナー違反ではあるが。
「あなたは何をしに来たんですか」
彼はついに斬り込んだ。
「さっき言ったのに」
彼女は妄言を言うのをやめなかった。
「置いて行かれた人間の気持ちなんか誰にも分からないでしょう」
走り出そうとしていた。彼女は夢の中で走ろうとしているようにゆっくりと浮遊しながら壁に向かって動き出していた。それはあたかも誘蛾灯に向かう羽虫のようだった。彼はやめておいたほうがいいですよ、と言うつもりで彼女の手を取った。
それは大失敗だった。
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