日常5

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 少し憮然としながら三和土のサンダルを引っ掛けて、磨ガラスの填った玄関の鍵を開ける。磨ガラス越しに見えたのは二人の人物のようだ。玄関を開こうとしたとき、いきなり外から大きな力で、ばんっ! と玄関を開かれた。 「浩哉は!? 浩哉はここにいるんだろう!?」 「――えっ? もしかして、富田さん?」  朝の挨拶もなく入ってきたのはスーツにトレンチコートの現トミタ社長の富田克典。その後ろにはため息をつきつつも顔色を変えていない彼の秘書の姿がある。そのまま土足で上がり込みそうな彼に俺は慌てて、 「富田さん、一体どうしたんです?」 「俺が目を離した隙にドイツの空港で行方がわからなくなったんだ! 浩哉! ここにいるのはわかっているんだ! 怒らないから出てきなさい!」  そんな小学生に言うように……。 「確かに浩哉はここにいますけどね。ちょっと落ち着いてくださいよ、富田さん」 「これが落ち着いていられるか! いきなり退職届けを人事に提出して消えたんだ! まだ浩哉を中心としたプロジェクトが進行しているのに!」  トミタを退職した?  そのとき、とんとんと階段から足音がして、スウェットのズボンだけを穿いて上半身は裸のままの浩哉が大きなシロイルカを抱えて降りてきた。そんな格好には気にも止めずに、浩哉! と富田社長がまた土足で上がり込もうとする。 「……担当のプロジェクトが終わったら好きにしていいって言ったよな、克典」 「そりゃ言ったさ! だけどな、先方のハイデル社のヴィクトルがおまえを気に入っているんだ。おまえが中心となるのならトミタの言うとおりに新車開発を進めていいって!」 「俺の案件は滞りが無いように寝る間も惜しんで終わらせたよ。今後五年はトミタは安泰だ。それにおまえお抱えの優秀なスタッフに全て引き継ぎも終わっている。ハイデル社の担当にもプロジェクト内容は伝えてあるよ。俺はやることはやった。だからもうお役御免だ」  ぱくぱくと富田社長が口を開け閉めする。
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