日常5

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「それにハイデルのヴィクトル社長、セクハラが酷すぎるぞ? 会うたびにキスは迫るし尻は触るし、一度、頭にきて蹴り飛ばしたら今度はいじめてくれときた。俺はそっちの趣味は無いからな。おまえが他の奴をあてがってやれ」  蹴飛ばした!? と富田社長が素っ頓狂な声を上げる。俺はそのやり取りがおかしくて笑いを堪えるのに苦労した。 「さあもう帰れ。来月からはアスダに戻るんだ。トミタは俺がいなくても大丈夫だよ」  握り拳をフルフルと震わせていた富田社長は、なにを思ったのかぐっと俺をきつく睨むと、 「わかった! じゃあ、こいつをうちに引き抜きする!」  はあ? 「津川さんがトミタにいれば、おまえはうちを辞めないだろう? だからヘッドハンティングだ! 津川さんはおまえ専属秘書にする! おまえの部屋を本社に作ってベッドもシャワーもつけてやるぞ。どうだ? いつでもどこでもヤりたい放題だ!」  大丈夫か、お兄ちゃん……。  浩哉が大きくため息をつくと後ろの秘書に目配せした。彼は待ってましたとばかりに、むんずと社長の首根っこを掴んでズルズルと玄関外へと引きずり始めた。 「じゃあ、非常勤! それもダメなら週に二日のアルバイトでもいいぞ!」  顔色の変わらない秘書にうちの前に横付けされたトミタの高級車に押し込められても、富田社長は喚いている。ばん、と後部座席のドアを閉めた秘書は、 「朝早くから大変失礼いたしました」 と、慇懃無礼に言うと助手席へと滑り込んで車は排気ガスを残して立ち去った。 「なあ、浩哉。本当にいいのか?」  富田社長を見送って家の中に入ると階段を上がる浩哉のあとを着いて問いかける。 「いいって、なにが?」 「トミタだよ。本当に辞めるのか? 実は富田社長もおまえの亡くなった親父さんもおまえに継いでもらいたいんじゃなかったのか?」  浩哉は黙ってシロイルカを抱きしめたまま俺の寝室へと歩いていく。その白い裸の背中を追いかけると、浩哉は寝室の前でくるりと向きを変えた。 「陵介はぼくがアスダに戻るのが、いや?」
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