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バサッと新聞の一面に眼を通してコーヒーを口に運ぶ。BGMは浩哉がシンクで洗う食器が小さくかち合う音、そして朝の報道番組のお天気おねえさんの声だ。
「……地方は晴れときどき曇り。降水確率は三十パーセント、最高気温は……」
「今日も残暑が厳しそうだね」
食器洗いの終わった浩哉がエプロンを外しながらテレビの天気予報を気にしている。
「そうだな。今日は洗車当番か?」
「うん。城ヶ崎が休みだから代わりにね」
またか、あのぼっちゃんは。
九月に入ってから城ヶ崎の有休申請が多くなった。別にそれは良いのだが、営業達が順番で行っている展示車の洗車やショールームの掃除当番などを、なぜか浩哉が城ヶ崎の代わりに行っている。代わってやったから城ヶ崎が浩哉に感謝を述べるとか浩哉の当番を請け負うのなら良いが、あの性悪なぼっちゃんはそんなこと一ミリも考えないだろう。
出社前の貴重なまったり時間――。
浩哉は自分のマグカップにコーヒーを淹れて俺の前に座った。俺が新聞を読んでいる間、浩哉はにこにこしながら俺の顔を眺めるか、報道番組で最新のニュースやトレンドをチェックする。女性客比率の高い浩哉には芸能ニュースの仕入れも貴重な営業ツールなのだ。
「天下のトミタのお家騒動か。まさか、トミタがこんなにガチガチの創業家主体の企業だったとは思わなかったなあ」
ここのところ新聞や経済ニュースのトップを飾っているのは、有名アイドルの熱愛でもなく、赤がシンボルカラーのプロ野球チームが二十五年振りの優勝へ向けて爆進中でもない、日本を代表する自動車メーカー、トミタのカリスマ会長の入院報道だった。
何でも齢八十をとっくに超えた現会長が今年に入ってから体調が思わしくなく、下世話なことをいえば余命幾ばくも無いそうだ。
この会長には二人の息子がいて、長男が今のトミタの社長と次男が副社長兼北米販売担当局長。息子二人が仲良くやって世界のトミタをこのまま維持してくれるなら御大も安心なのだろうが、この二人の息子はかなりに仲が悪いらしい。
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