日常3

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 うん、と重い足取りで助手席に収まった浩哉を追って俺も運転席に座ると、車をスタートさせた。 「浩哉。どうして俺の車で通勤するのを嫌がるんだ?」  うちから車だと二十分程で店に着く。公共交通機関を利用すると大回りになって小一時間は掛かってしまう。 「やっぱりね、その……、周囲の目が気になる、かな」  先週から浩哉の十年超えの軽自動車の調子が悪くなり、今はうちの店の整備工場に預けて修理をしてもらっている。部品の調達などに手間取ってしまい、浩哉は今、移動手段が無い状況だ。修理中は代車の貸し出しもあるのだが、やはりお客様優先だからか浩哉は代車を申請することはしなかった。 「浩哉があの火事の影響で俺と一緒に住んでいることは店長にも言っているんだ。そんなに気にすることは無いさ」  うん、と頷いた浩哉はそれでも不安げだ。俺は浩哉の頭を撫でようと手を延ばしかけたが、店の看板が見えてきてそれは止めた。  ウィンカーを出して車を店の社員用駐車スペースへと入れる。二人で車を降りると俺達に気がついた整備士や営業が口々に声をかけてくれた。それに、おはよう、とこちらも応じたが彼らの態度には何ら変わったところはない。  ――何を気にしているのかな、浩哉は。  俺が浩哉の心配していることの正体が判ったのは、次の日のマネージャー会議でのことだった。 ***** 「……長いな」 「ああ、いつもの通り、今日も長い」  何回同じことを目の前の部長から聞いただろう。もう一言一句を諳じれるほどの空回りの檄に白けムードが漂い始めたころ、 「すみません、部長。そろそろ終わってもらえますか。私は次の予定があるので」 と、中央地区の八島(やしま)エリアマネージャーが口を挟んだ。 「さすがだな」 「ああ、さすがだ」  俺の隣りの東部地区エリアマネージャーの坂井(さかい)がおうむ返しで俺の言葉に頷く。やっと部長の的外れな叱咤激励から解放されて俺達は会議室を後にする。 「しかし今日も北部は吊し上げだったな」
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