日常3

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「否定はしない。容姿すらも我々営業には重要な武器だ」  悪かったな、十人並みで。 「君が真木に私の意向を伝えていないのは判っている。西部の店長にしてもそうだな。余程、真木は君達にとって大切な姫君らしい」  あののほほん店長が? きっと気の良い笑顔でのらりくらりと躱しているのか。だけど何だよ、こいつ。浩哉を姫だなんて。 「だから直接、真木に私の想いを伝えようと思うが」  何これ? 一応、俺に浩哉に会うことの了承を取っているのか? 「果たして真木が会ってくれますかね」  俺のセリフにやっとピクリと八島さんが反応した。 「経緯は良くは知りませんが、結構中央店では陰湿な嫌がらせにあっていたようですし、あの店を出た人間を他の営業が快く迎え入れてくれるとはとても思えませんね」  中央店は県下どころか隣県含めてこの地方での稼ぎ頭の店だ。そうでなくても営業マンはその店に居ることに自負を持っている。言わば、うちの城ヶ崎のような奴がごろごろ居るのだ。  だから一度中央店を去った浩哉が戻ったって、以前よりも一層厳しい目に合うのは俺だって分かる。  だが、八島さんは三度目の眼鏡のフレーム押し上げをすると、 「あれは確かに私の不徳の致すところだった。だが、もう問題の人間は居なくなったし、真木が戻ってくるのに障害は無い」  言い切りやがったな、この野郎。 「それに以前よりも私も真木に心を配れる。今の真木なら他の者も文句は言えないだろう」  トカゲの尻尾を切ったから大丈夫だと言いたいのか。 「とにかく君や西部の店長に言っても埒が明かないのは理解した。これから私は真木に会ってくる」  今からですか、と坂井が呟いた。俺は八島さんにきつく視線を向けて、 「端からそのつもりだったんですね。さっきの会議のときも、予定があるというのは真木とコンタクトを取りに行くためでしたか」 「本来なら君に黙っていても良かったのだが、曲がりなりにも今は真木は君の配下の人間だからね」  自分なりに礼儀は通したと言いたいのだろう。
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