日常3

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「でも連絡先を知っているのですか? それに今夜、真木が会ってくれるとも限らない」  今夜は浩哉は別の私用で居ないんだ。すると八島さんは何と、 「彼の家の住所は知っているからね。直接、会いに行く」 と、のたまった。 「直接って真木の自宅に?」  なぜか隣りの坂井がかなりの驚きの声をあげている。そこまでして浩哉に会いたいのかよ。  俺は勝手な八島さんの言いようにムカッ腹がピークに達した。 「真木は今夜、うちに居ませんよ」  なに、と八島さんが気色ばむ。 「今夜は私用があるから遅くなると今朝言ってましたから」 「なぜ君が部下のプライベートまで把握しているんだ?」  あ、面白い。鉄面皮の八島さんの表情が変わっていく。 「そりゃ知ってますよ。だって真木は今、俺の家に居るんですから」  一瞬、鎮まり返った廊下に、えっ! と坂井の素っ頓狂な叫びが響いた。 「八島さんが知っているのは真木が中央に居たころの住所ですよね? うちの店に来てから真木は近場に越したんですよ。そしてちょっとそこもトラブルがあって、今は私と一緒に暮らしているんです」  まあ、シェアハウス的な? とつけ加えたが坂井は目玉が落ちるかというほどに瞼を見開き、八島さんもその一重の目の上の眉の端を引き上げた。 「ですので、真木の家への訪問はご遠慮頂きます。大家の私が嫌なので」  そこまで言うと坂井が急に俺の二の腕を掴んで、ハハハッ、と乾いた笑い声をあげた。そして、 「まあ、今日は真木も留守らしいですから、またの機会にしましょうよ、八島さん。津川もな、この件は一応、帰ったら真木に伝えておこうな」  そう言って、俺達はこの辺で、と坂井は俺を引っ張るように階段を降り始めた。すると後ろの八島さんは最後に俺にこう言った。 「分かった。真木の異動の件は本社の人事に正式に話をつける」  何を、と開きかけた口をむぐっと坂井に抑えつけられて、俺はズルズルと引きずられながら階段の上から見おろす八島さんを睨みつけていた。
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