日常3

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「それは表向きの理由だ。本当は、恋愛感情が拗れて追い出されたんだよ」  ――恋愛感情が拗れた? 「八島エリアマネージャーは女よりも男のほうを好むんだ」  坂井は言葉を選んでいるが、要するに八島さんはゲイだというわけか。 「真木が中途で入ってきたときに面倒を見たのが八島さんだ。あの人の好みは見た目も良くて賢い奴なんだそうだ。ほら、ぴったりだろう? 真木は」  確かに好みだろうな。 「ところがだ。そのころ中央店には八島さんのお相手がいたんだ。中央店の若手のホープって言われていた奴だった。二人の付き合いは周囲も知っていたらしい。八島さんは特別周囲にそういったことを隠したりはしなかったってさ」 「そうなのか。何となく想像はついたぞ」  坂井はヤキトリを一口齧ると、 「真木がぐんぐん売り上げをあげてくると八島さんはあっさりと真木に乗り換えようとした。結構あからさまに真木に迫っていたらしいぞ。でも真木は相手にしなかったそうだ。いつもにこにこ笑って上手く躱していたらしいのだけれど……」  その態度が八島さんの恋人には我慢がならなかったのか――。 「八島さんに捨てられるのを恐れたお相手は、真木を面白くなく思っていた数人の奴らと結託して真木の追い出しを図った。おまえは子供じみたと言ったが、現状はそれは酷かったそうだ。  車のタイヤの空気を抜かれるのはしょっちゅうだし、因縁をつけられて暴力沙汰一歩手前とかな。最後は客からの集金の一部を横領したと疑いを掛けられて懲罰委員会にかけられるところまで行ったそうだ」 「……それは、ひどいな……」  浩哉はそんな状況だったとは一言も俺に打ち明けてはいない。俺もマネージャー会議の席でチラホラと噂を聴いたくらいで、そんなに酷いことをされていたとは思ってもいなかった。 「でもよく知っているな」  感心したように言った俺に坂井は、 「そりゃそうだ。だって嫌がらせの首謀者に聴いたんだから」  俺が小首を傾げると、 「先月にうちの地区に中央店から二人ほど島流しされてきたんだよ」 「島流し?」
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