日常3

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「わっ、陵介?」  浩哉に向かって両手を伸ばすとその肩に腕を廻して体を凭れかからせる。図体のでかい俺の体重をまともに食らって、浩哉が少しバランスを崩した。  それでも浩哉は俺を抱きとめると、背中に添えた手のひらを、ぽんぽんと軽く叩き始めた。 「おつかれさま。マネージャー会議、大変だった?」  まるで小さな子供をあやすような優しい口調に、俺は胸が熱くなって全てを浩哉に晒け出したくなる。 「うん。まあまあ大変だった」  まあまあ、と浩哉は笑うと「居酒屋の臭いがする」と鼻を鳴らした。  煙草の煙りと揚げ物の油と酒の混じった臭いを浩哉につけちまうな。  名残惜しいが浩哉から体を離すと、優しい瞳が俺に語りかけてくる。これは全てお見通しか。俺はそんなに酔っているわけではないのに頬が赤らんでくるのが分かった。 「あのさ、ちょっと話があるんだけれど」  小首を傾げた浩哉が、うん、と頷いて部屋の中へと誘ってくれる。いつ見ても荷物の少ないがらんとした部屋の畳の上に敷かれた布団は、少しシーツが乱れていて横になっていたんだな、とすまない気持ちになった。  浩哉は掛け布団を三つに折り畳んで足の方に置くと、 「布団の上でもいい?」  いいよ、と言って二人して布団に胡座を組んだ。 「どうしたのかな、あらたまって」  柔らかく聞いてくる浩哉の後ろの枕とその隣りに置かれたモフモフに視線が止まった。 「なあ浩哉。もしかして、いつもそれを抱きしめて寝ているのか?」  それは夏の水族館で買った大きなシロイルカのぬいぐるみ。まるで添い寝をするようにヤツは浩哉の枕元に、でん、と寝そべっている。 「たまにね。眠れないときなんかいいんだよ。大きさもちょうど抱き枕みたいだし、陵介そっくりだし」  それなら、いつでも俺が抱き枕の代わりになってやるのに――。  という邪念は取り敢えず頭の片隅に押し込めて、 「実はな、今日の会議の終わりに中央地区の八島エリアマネージャーに声をかけられたんだ」  浩哉の顔から少し笑みが薄れた。
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