日常3

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「ぶっちゃけると、おまえを中央に戻したいらしい。もちろん俺も店長もそんな気は無いから断ったんだが……」  そこまで言って目の前の浩哉の様子を窺った。浩哉は何かを考え込むように口元に指を当てていたが、 「……多分、以前から八島マネージャーは陵介達にそのことを言っていたんだよね」 「……まあな」  レンズの向こうの瞳が細められる。そして、 「ごめん。ぼくは陵介や店長に迷惑をかけているね」 「迷惑なんて思ってないさ。大体、八島さんのやり方は気に入らないんだ。自分の役に立ちそうな人間だけをチョイスして使えなければポイ捨てなんてあり得ないだろ」  浩哉は小さく頷いたが、それでも沈痛な面持ちは変わらない。 「俺があまりにも八島さんの戯れ事を無視をするから、今日は人事に話をすると脅してきたけれどな、俺はおまえを手離すなんて塵ほども思ってないから」  はっと浩哉が俺の顔を見た。俺は不安そうな浩哉に笑いかけると、 「早く西部でもエタニティを取り扱えるように頑張るよ。今のところ資格を持っているのは浩哉だけなんだ。皆の期待を背負っているんだから、おまえは何も気にせずに俺のそばにいればいい」  陵介、と浩哉が瞳を潤ませる。やばっ、かわいい。ちょっと俺の股間がその気になってきた。 「今日、坂井から聞いたんだ。浩哉は中央で酷い目にあっていたんだな」  俺は右手を伸ばすと浩哉の柔らかい髪をくしゃっと撫でた。少し肩を竦ませた浩哉が上目使いに頬を染めた。 「良くアスダを辞めずに頑張ったな」  くしゃくしゃとさらに撫でると浩哉は、 「……辛かったけれど、でもおかげで陵介に逢えたから」  浩哉は頭に置かれた俺の右手を取ると、その手のひらを自分の頬に押し当てた。 「今はとても毎日が愉しいんだ。店の皆も優しいし、いつも好きなひとの働く背中を見ていられるのはとても幸せなことなんだよ」  男にしては滑らかな頬の感触にドキンと胸が跳ねた。ふふっと照れ笑いをした浩哉の頬に右手を当てたまま、俺は左手を伸ばして浩哉の肩を抱き寄せた。
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