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幕間:little boy
「今のご時世、物の価値が分かる人なんてほんの一握りだよ」
いつの間にか隣に少年が立っていた。
彼と同じように、吹き抜けになっている階下の様子を手すりに寄りかかって見下ろしていた。
「ここにいる人たちは、全然見る眼がないね。みんな表面的な美しさしか見ていない、ただ周りに合わせて薄っぺらい言葉を並べているだけ」
ガラスケースの周りに群がる人々を見据えて、少年はつまらなさそうに嘯いた。
「……アレのどこが美しいって? どこからどう見ても、作りかけ途中の代物じゃん」
少年の言葉に、彼はとても驚いた。
この少年は、あれが完成品ではないと、見抜いたのだ。
「少年、君は良い眼を持っているな。君がアレを美しくないと思うのは当然だ。何故ならアレは、未完成品なのだから」
「……さっき僕、そう言ったよね」
「だが、少年。アレが完成した姿を見れば、その評価は覆るだろうよ」
「無理だけどね。真実の姿は、創造主本人にしかわからない。その創造主も、はるか昔に亡くなってる」
未完の作品の完成した姿なんて、後世の人々にはただ想像することしかできない、と少年が呟く。
確かにその通りだ、と彼も思う。
だが、あの未完成品に関してだけは違う。
「――いいや、私はアレを完成させられる」
少年のエメラルドグリーンの瞳が大きく見開かれた。
「……お兄さん、頭大丈夫? 人の作品を勝手に作り替えちゃダメなんだよ」
「人の作品ではない。アレは私の作品だ」
少年は、うわぁどうしようこの人危ない人かも、という胡散臭そうなモノを見るような眼差しで彼を見上げた――
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