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第2幕
<明後日夜9:00、『白珠の小箱』をいただきに参上します。 怪盗――>
***
西星真白は、公園の噴水の淵に腰かけてため息をついた。
「編集長も……無茶苦茶言いやがる……」
昨日この街の美術館に、怪盗から予告状が届いた。
ついに、この街にも怪盗が、と色めき立つ街の様子に、今なら売れるとばかりに、怪盗特集を掲載しよう、と言い出したのが真白の上司である編集長だ。
そして雑誌記者である真白に下された指令が、まだどこのメディアも入手に成功していない、怪盗の姿を写真に撮ってこい、という無謀極まりない内容だった。
怪盗が現れると予告された日には、当然のことながら他のメディアの人々もいるわけで、どこも怪盗の激写を狙っていることは言うまでもない。
そんな多数大勢のカメラや報道陣、記者などが押し寄せているにも関わらず、これまで、どこの街でも誰一人として怪盗の姿を捉えたものがいないというのだから、この指令がどれだけ困難極まりないモノかわかるだろう。
しかし、下っ端である真白に逆らう権利などあるわけがなく、大人しく従うしかなかった。
そして今、下調べにと予告状が届いたという件の美術館の秋森館長へ取材を申し込んだところ、きっぱり拒否されたところであった。
「……あーもうっ! 無理だっつの!!」
急に叫んだ真白の声に驚いた鳩が一斉に飛び立った。
ひそひそと遠巻きに公園にいる他の客の視線を感じて、我に返った真白は深くため息をついた。
「…………大手メディアの取材ならともかく、こんな小さな出版会社の取材なんて優先的に受けてくれるわけないよな……」
「…………おい」
「つーか、相手はモデルじゃないんだから、こんな一眼レフカメラで、性能のいい機器備えてるテレビ局ですら撮影できてないヤツの姿なんて撮れるわけないだろうが……」
「――おい」
「え?」
地の底を這うような低い声音に、真白が顔を上げると、目の前に恐ろしく整った顔立ちの青年が仁王立ちして、アイスブルーの瞳で冷ややかに真白を見下ろしていた。
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